緑の悪霊 第8話


「なんとまあ、恐ろしい娘だなお前は」

ナナリーの部屋に招かれたC.C.は思わず額を抑えながら言った。
ここに置かれたスピーカーから聞こえるのは、間違いなく二階にいるルルーシュとスザクの声。

「愛するお兄様の安全のためですもの、このぐらい当然ではありませんか?」

ふんわりと優しい笑顔で言いながら、やっている事は盗聴なのだ。
C.C.は渇いた笑いを上げるしかなかった。
何時から仕掛けられていたかは知らないが、部屋での会話は丸聞こえなのである。
つまり、ルルーシュが黒の騎士団のゼロだという事も駄々漏れ状態で、ルルーシュとC.C.が同衾している事ももちろんナナリーは知っているという事だ。
設置場所は恐らくベッドの周辺。
寝言もばっちり聞こえるだろう場所だ。
・・・ルルーシュに手を出してたら、殺されてたな。
普段は隠しているどす黒い嫉妬のオーラ全開でC.C.に微笑みかけている姿だけで、容易に想像出来た。

「お兄様がそのような経験をされていない綺麗なお体だという事は、私が誰よりも知っていますが・・・C.C.さん、まさかあちらでお兄様に手を・・・」
「出してないし、私がいることで他の輩は近づかないから安心しろ」

ざわりと全身に悪寒が走り、C.C.は若干早口になりながらそう言った。
不老不死の身だから死など恐れていないのだが・・・この娘を怒らせれば、死よりも辛い責め苦を受けそうで怖い。
怖すぎるぞルルーシュ。
お前の妹こんな奴だったのか。
何が虫も殺せないか弱い妹だ。
邪魔な者は虫けらのごとく踏みつぶすタイプだぞ・・・そう、まるでマリアンヌの様にな!長年一緒にいて何で気がつかないんだお前は!!
C.C.は表面上平静を保ったまま、ルルーシュに心のなかで文句を言った。
マリアンヌの外見をルルーシュが、内面をナナリーが引き継いでいるなんて、ルルーシュは知るはずもないのだが、文句でも言わなければやってられない心境なのだ。

「そうですか。C.C.さんが不埒な輩からお兄様を守る盾になっているんですね。では、愛人と言う忌まわしい呼び名も容認するしかありませんね・・・。今後もお兄様を身を呈して守ってくださいね?」

愛らしく首を傾げながらのお願いだが、今すぐここを立ち去りたいぐらい恐ろしい物だった。拒否は認めません。間違いなくそう言っている。

「ああ、解っているさ。実際にすでに2度、この体でルルーシュの命を守っているからな」

実績はあるんだぞ!と、C.C.は口にした。

「2度、ですか?」
「ああ。ルルーシュがクロヴィスの親衛隊に撃たれた時、そしてナリタで白兜の攻撃に生身で晒された時、私が庇ったからルルーシュは死ななかった」

その言葉に、ナナリーは辛そうな表情をした後、幾分か殺気を緩めてくれた。

「そうでしたか。お兄様を救ってくださりありがとうございます」

ナナリーは改めて礼を言った。
ルルーシュがクロヴィスを殺す理由が政治的な事以外思いつかなかったのだが、先に命を狙われていたというなら納得だ。
もしかしたら自分たちの生存も何らかの理由で知られたのかもしれない。
つまり、今のナナリーとの二人きりの生活を守るためにその手を血に染めたという事。
ああ、私のためにお兄様が!お兄様、私もその罪を背負います。一生二人で償っていきましょうね。

「C.C.さん、今の私たちの敵は聞いての通り発情中の愚かな駄犬です。犬は犬らしくご主人様の命令に従い、少しかまってもらえる事だけで幸福を感じていればいい物を、あろうことかそのご主人様に手を出そうなどと身の丈に合わない思いを抱いているのです」

駄犬と言いきったぞこいつ。
C.C.は下手な突っ込み入れず「そうだな」とだけ返すことにした。
その時、マイクが拾った二人の会話に変化が訪れた。

『ルルーシュ、僕が神社の息子だってこと、覚えているよね?』
『ああ。当たり前だろう?』
『つまり僕には悪霊を徐霊する力があるんだ』
『そ・・・そうなのか?』

真剣な声音のスザクと、戸惑ったようなルルーシュの声に、ナナリーの周りにどす黒い炎が噴き出し始めた。
いわゆる嫉妬の炎だ。

「悪霊どころか霊の存在すら信じていないというのに、この駄犬は純粋なお兄様を騙そうとしているようですね」
「そのようだな」

ルルーシュが純粋かどうかは別にして、面白く無い状況だ。
C.C.も思わず眉間に皺を寄せながら同意した。

『だから、君に取りついた悪霊は、僕が祓ってあげる』

甘さを含んだ声で、スザクはそう言った。

『そうか、じゃあお願いするか』

悪霊は信じていなくても、親友は信じているのだろう。
ルルーシュは、素直にお願いした。

『うん、任せて』

喜色を乗せて、スザクは返事を返した。
おそらく今頃満面の笑みを浮かべているだろう。

『ほわあぁぁぁぁ!?なにをするんだスザク!』

どさりと言う音と、スプリングがきしむ音。

『大丈夫、怖くないよ』

先ほどとは違う意味で低くなった声、そして今の音と内容から、恐らくルルーシュはベッドに押し倒されたのだろう。
ゴゴゴゴゴと音がしそうなほどのどす黒い炎を纏ったナナリーは、すっと携帯を耳にあてた。

「発情した駄犬がご主人様を襲おうとしています、お願いしますね?」
『まーかせて!』

僅かに漏れ聞こえた元気な声に、C.C.は思わず現実逃避し、窓の外に広がる青空を見た。

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